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大阪地方裁判所 平成8年(ワ)7667号 判決

原告

株式会社トム・クリエイション

右代表者代表取締役

岡本英則

右訴訟代理人弁護士

山内良治

被告

株式会社科学技術学園事業部

右代表者代表取締役

中山均

被告

山崎種三

右被告両名訴訟代理人弁護士

上條博幸

島本信彦

主文

一  原告の被告株式会社科学技術学園事業部に対する主位的請求を棄却する。

二  被告らは連帯して、原告に対し、金六一六万八三四九円及びこれに対する平成八年八月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告の被告株式会社科学技術学園事業部に対するその余の予備的請求及び被告山崎種三に対するその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

五  この判決は、第二項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは連帯して、原告に対し、金一一八五万二四六三円及びこれに対する平成八年八月一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  (当事者)

(一) 原告は、テレビ・ラジオ番組・コマーシャルの企画及び制作、芸能家の紹介及び斡旋、広告代理店業務等を目的とする株式会社である。

(二) 被告株式会社科学技術学園事業部(以下「被告会社」という。)は、学校施設の維持管理業務、文化教養講座及び資格検定試験会場の開設業務等を目的とする会社である。

(三) 被告山崎種三(以下「被告山崎」という。)は、被告会社の実質的なオーナーであり、その取締役に就任している。

2  (請負代金請求権の発生)

(一)(1) 原告は、平成七年八月四日、被告会社の従業員である高橋勉(以下「高橋」という。)との間で、被告会社が一〇五芸能学園を開校するに当たって、原告が被告会社からパンフレットの制作、広告宣伝、開設準備プロモートを請け負うとの請負契約を締結した(以下「本件請負契約」という。)。

(2) 高橋は、同年一〇月二〇日、原告との間で、本件請負契約に基づく代金を精算して支払うとの合意をした。

(二) 高橋は、本件請負契約の締結の際、被告会社のためにすることを示した。

(三)(1) 被告会社は、高橋に対し、本件請負契約の締結に先立ち、代理権を与えた。

(2) 仮に代理権を与えなかったとしても、被告会社は、高橋に対し、一〇五芸能学園開設についての対外的交渉権があるかのような肩書と名刺を与え、もって、原告に対し、高橋に本件請負契約の代理権を与えた旨表示した。

(四) したがって、原告は、被告会社に対し、本件請負契約に基づき、後記4の原告が支出した費用等の合計一一八五万二四六三円の請負代金請求権を有している。

3  (不法行為責任)

(一) 原告代表者は、平成七年初めころ、被告会社の従業員で、施設運用企画室の室長である高橋と同室長補佐である筒井滋(以下「筒井」という。)から、芸能学園を創立したいので、人を紹介して欲しいし、パンフレットの制作企画や広告宣伝も任せたいので協力して欲しいとの要請を受けた。

(二) 原告は、被告会社に対し、芸能学園の創立についてのアイデアを提供すると同時に、それに応じたパンフレット制作も並行して開始した。

(三) 被告山崎、高橋及び筒井は、同年八月四日、原告代表者と会合し、その際、被告山崎らは、原告代表者に対し、芸能学園開校についてのパンフレットの制作、広告宣伝や開設準備のプロモートを依頼し、原告代表者はこれを了承した。

原告は、新野新(以下「新野」という。)に対し芸能学園の学園長に就任するよう働きかけ、同人を説得してその了承を得たり、被告会社に芸能学園の講師となるべき芸能関係者を紹介したりした。また、パンフレットや広告の制作など芸能学園開校のための準備作業を行った。

(四) 被告山崎、高橋、新野、原告代表者は、同年一〇月六日、学校法人京都科学技術学園(以下「学校法人技術学園」という。)理事長室において会合し、正式に新野が芸能学園の学園長に就任すること及び学園経営の大略を決定し、また、原告代表者が、ほぼ仕上げていたパンフレットのカラーカンプを被告山崎に見せたところ、音楽関係のページをもう少し増やせば他は見積費用を含めてすべてよいということで話が決まった。その際、被告らは、新野がパーソナリティを務めている「ウダのウダ」というラジオ番組のスポンサーになることも決めた。

(五) ところが、高橋は、同月一九日夜から二〇日にかけて、突如、原告代表者に対し、芸能学園開校計画から降りるよう要求した。原告代表者が高橋にその理由を問い質したところ、高橋は、理由は分からないが被告山崎の指示に基づくものであり、被告会社においては被告山崎の指示は絶対的なので致し方ないと説明した。原告代表者は、やむを得ず右の要求を受け入れ、これまでかかった費用の支払を求めたところ、高橋は、かかった費用は当然被告会社が支払う旨述べた。

(六) 被告会社は、原告が制作した一〇五芸能学園のロゴや広告などを使用し、また原告が紹介した新野学園長や講師陣をそのまま起用し、平成八年二月生徒募集を行い、同年四月に一〇五芸能学園を開校した。

(七) (被告会社の責任)

被告会社は、右(一)ないし(六)のように、従業員である高橋に代理権を授与したかのような外観を作出し、かつ原告に事業を推進させ、原告に損害を与えたものであり、このような行為は不法行為に該当するから、後記4の原告が支出した費用等の損害を賠償すべき義務がある。

(八) (被告山崎の責任)

被告山崎は、被告会社の取締役かつオーナーとして、高橋らとともに、右(一)ないし(六)のように、原告に一〇五芸能学園開校事業を行わせながら、突如、原告との関係を破棄したものであり、このような行為は不法行為に該当するから、被告会社と連帯して、後記4の原告が支出した費用等の損害を賠償すべき義務がある。

4  (原告が支出した費用等)

(一) パンフレット制作費

六二一万六〇〇〇円

内訳 開校パンフレット制作費

(四一二万二〇〇〇円)

開校A4チラシ制作費

(二三万五〇〇〇円)

原告の手数料

(一八五万九〇〇〇円)

(二) 雑誌広告制作費

一六九万八〇〇〇円

(三)(1) FM802ナレーション費 二五万円

(2) FM802ステッカー裏広告制作費 八万四九五一円

(四) 新野プリント料 五万円

(五) 企画料(右(二)ないし(四)についての原告の手数料)

二〇万八二九五円

(六) 開設準備プロモート費(原告が被告会社に芸能関係者を斡旋したことによる仲介手数料) 三〇〇万円

(七) 右(二)ないし(四)の合計額に対する消費税(三パーセント)

三四万五一二七円

以上合計 一一八五万二四六三円

5  よって、原告は、被告会社に対し、主位的に本件請負契約に基づき、予備的に不法行為に基づく損害賠償請求権に基づき、被告山崎に対し、不法行為に基づく損害賠償請求権に基づき、一一八五万二四六三円及びこれに対する訴状送達の日で不法行為の日の後である平成八年八月一日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実のうち、被告山崎が被告会社の実質的なオーナーであるとの点は否認し、その余の事実は認める。

2  同2の事実は否認する。

3(一)  同3(一)の事実のうち、高橋と筒井が被告会社の従業員であったこと、平成七年初めころ、高橋及び筒井と原告代表者との間で、芸能学園の創立運営に関し、相談がなされたことは認めるが、その余の事実は否認する。

(二)  同3(二)の事実は否認する。

(三)  同3(三)の事実のうち、被告山崎、高橋及び筒井が、平成七年八月四日、原告代表者と面談したこと、原告代表者が芸能学園の学園長として新野を被告会社に推薦紹介したことは認めるが、その余の事実は否認する。被告会社は、パンフレットや広告の制作等は、その都度コンペ形式で相見積りや原稿を提出させた上で決定、発注することにしていたのであって、原告に全面的にかつ無条件で発注したことはない。

(四)  同3(四)の事実のうち、被告山崎、高橋、新野、原告代表者が、平成七年一〇月初旬、面談したこと、新野が芸能学園の学園長に就任することを承諾したことは認めるが、その余の事実は否認する。パンフレットについては、内容がお粗末であったため使用しなかった。

(五)  同3(五)の事実のうち、平成七年一〇月二〇日ころ、被告会社が原告代表者に対し、芸能学園の創立及び学園生募集の広告宣伝に関して、今後は原告に発注しない旨通告したことは認めるが、その余の事実は否認する。

(六)  同3(六)の事実のうち、原告の制作した広告が被告会社名で雑誌に掲載されたこと、被告会社が平成八年四月、新野を学園長として一〇五芸能学園を開校したことは認める。

(七)  同3(七)及び(八)の事実は否認し、主張は争う。

4(一)  同4(一)は争う。前記のとおり、被告会社は、パンフレットの制作はコンペ形式で相見積りや原稿を提出させた上で決定、発注することにしていたところ、被告会社は原告が制作したパンフレットを採用しなかったのであるから、その制作費を支払う義務はない。また、右パンフレットは完成したというにはほど遠い出来のものであり、原告が主張するような金額がかかるものではない。原告主張の開校A4チラシ制作費も過大なものである。

(二)  同4(二)は、合計四二万四五〇〇円の限度で認める。原告主張の金額は過大である。なぜなら、雑誌及び新聞に掲載された広告のうち、新聞掲載のものについては原告はその制作に関与しておらず、原告が制作したのは、Lマガジン平成七年一一月号、ぴあ同月一四日号・同月二八日号、ハナコウエスト同年一二月号、ザ・テレビジョン同年一一月八日号に掲載された広告であるところ、Lマガジン、ぴあ、ハナコウエストに掲載された広告は同一の原稿によるものであって、その制作代金は三三万九六〇〇円が相当であるし、ザ・テレビジョンに掲載された広告は超小型であって、その制作代金は八万四九〇〇円が相当であるからである。なお、右とは別に、ロゴデザイン費として一〇万円の支払義務のあることを認める。

(三)(1)  同4(三)(1)については、被告らはいったんこれを認めたが、右自白は、原告が株式会社ミズ(以下「ミズ」という。)に対し実際にナレーション費二五万円を支払ったものと誤信して錯誤に基づきなした真実に反する陳述であるから、右自白を撤回し、否認する。

(2) 同(2)は認める。

(四)  同4(四)は否認する。雑誌広告制作費に含まれているので、別途に支払義務はない。

(五)  同4(五)及び(六)は否認する。

三  抗弁

1  弁済

被告会社は、原告に対し、平成七年一〇月一一日に一五万円を、同年一一月一〇日に一五万円を各弁済した。

2  相殺

(一) 原告は、別紙1「新聞雑誌広告掲載一覧表」記載のとおり、被告会社に無断で被告会社を広告主として新聞雑誌の広告の枠取り(掲載の予約)をした。

(二) 被告会社は、後日、右無断予約の事実を知ったが、右のとおり被告会社を広告主としたものであることから、社会的信用の失墜を避けるため、やむなく予約どおりに広告を掲載し、広告代理店に対し、右一覧表記載の掲載費用合計五二二万一五七〇円を支払った。

(三) しかし、被告会社は右のように多数回で多額の費用を要する広告をすることは予定していなかったものであり、原告が予約した広告のうち、少なくとも半分以上は不要な広告であったため、被告会社は二六一万円の無駄な出捐をしたことになり、同額の損害を被った。

(四) 被告会社は、原告に対し、平成九年五月八日の本件口頭弁論期日において、右の損害賠償請求権をもって、原告の本訴請求債権とその対当額において、相殺する旨の意思表示をした。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実は認める。但し、平成七年九月分及び一〇月分の開設準備プロモート料として支払を受けたものである。

2(一)  同2(一)の「無断で」という点は争う。広告の枠取りは、被告会社の高橋、筒井らとの綿密な打合せに基づいてしたものである。

(二)  同2(二)及び(三)は争う。原告のした広告の枠取りの回数、費用は、被告会社の開設する芸能学園の入学金、授業料が他社の養成所と比べて高額であることからして、当然のものである。

第三  証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因1(当事者)の事実は、被告山崎が被告会社の実質的なオーナーであるとの点を除き、当事者間に争いがない。

二  同2(請負代金請求権の発生)及び3(不法行為責任)の事実について判断する。

1  高橋と筒井が被告会社の従業員であったこと、平成七年初めころ、高橋及び筒井と原告代表者との間で、芸能学園の創立運営に関し、相談がなされたこと、被告山崎、高橋及び筒井が、平成七年八月四日、原告代表者と面談したこと、原告代表者が芸能学園の学園長として新野を被告会社に推薦紹介したこと、被告山崎、高橋、新野、原告代表者が、同年一〇月初旬、面談したこと、その際、新野が芸能学園の学園長に就任することを承諾したこと、同月二〇日ころ、被告会社が原告代表者に対し、芸能学園の創立及び学園生募集の広告宣伝に関して今後は原告に発注しない旨通告したこと、原告の制作した広告が被告会社名で雑誌に掲載されたこと、被告会社が平成八年四月、新野を学園長として一〇五芸能学園を開校したことは当事者間に争いがなく、右争いのない事実に証拠(甲二ないし一一、一八、二三、二六、二八、二九、四〇ないし四七、四九、五〇、六一ないし八二、証人高橋、同速水やよみ[以下「証人速水」という。]、原告代表者、被告山崎本人)及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の(一)ないし(九)の事実が認められる。

(一)  被告山崎は、平成七年二月ころ、学校法人技術学園の系列専門学校の職員である高橋及び筒井に対し、平成四年一二月三一日に一旦解散決議をしていた被告会社に出向して、被告山崎の妻が社長をしている系列会社が所有していた大阪市北区錦町〈番地略〉所在の一〇階建てビルを活用して事業をするよう指示し、高橋に被告会社施設運用企画室室長の肩書を、筒井に同室長補佐の肩書を与え、その後、同ビルで芸能学園を開校するよう指示した。そして、被告会社は、被告山崎の指示により、平成七年三月一日、会社継続の株主総会決議をし、同日、中山均(以下「中山」という。)が代表取締役に、被告山崎、森本益弘、加川義夫、芦田正彦が取締役に、内田幸治が監査役にそれぞれ就任した。

学校法人技術学園は学校教育を行うことを目的とする法人であり、系列の多数の専門学校、自動車学校等を統轄している。被告山崎は、平成七年の時点では学校法人技術学園の理事を辞任していたものの、同学園の会長であり、実質的な経営者(オーナー)であった。そして、被告会社の右中山、森本益弘・加川義夫・芦田正彦、内田幸治は、いずれも学校法人技術学園の職員又は理事であって、被告会社の代表取締役、取締役、監査役であるとはいうものの、被告山崎の指示を受ける立場にあり、実際には、被告山崎が実質的な経営者(オーナー)として被告会社の実権を握っていた。

(二)  高橋は、平成七年四月ころ、原告代表者に芸能学園開校計画の相談をもちかけたところ、かねて芸能学園のようなものが必要であると考えていた原告代表者は、芸能学園の開校に協力する意思を表明し、以後、学園長や講師となる者の紹介等をすることになった。そして、原告代表者は、芸能学園の学園長候補として、原告代表者の知人で放送作家である新野を被告会社に推薦し、また、芸能関係者に対して、芸能学園の運営責任者や講師になってくれるよう働きかけ、城谷俊也(以下「城谷」という。)、伊東省(以下「伊東」という。)や木村政雄、勝隆俊、キダ・タロー、山路洋平、池田幾三などの了解を得て紹介していった。

同年六月ころには、原告代表者と高橋との間で、新野に学園長に就任してもらうこと、芸能学園の開校を平成八年四月とし、平成七年秋から学園生の募集活動を行うことなどが決定された。なお、高橋は、開校準備の進捗状況を被告山崎に報告していた。

(三)  平成七年八月四日、高橋及び筒井は、原告代表者、新野、城谷、伊東と被告山崎とのホテルでの会合の場を設けた。その場において、新野に学園長に就任してもらう予定であること、開校は平成八年四月を予定していること、パンフレットの制作や広告宣伝、開校準備の企画運営を原告に依頼することなどが話題になり、被告山崎をはじめとする出席者全員がこれを了承した。

(四)(1)  原告は、右会合の結果を受け、チラシ・パンフレットの制作、雑誌・新聞の広告の版下の作成、一〇五芸能学園のロゴマークのデザインを、広告の企画制作を業とするミズに委託した。

ミズは、平成七年九月初旬には、チラシ・パンフレットの制作及び雑誌広告の版下の作成を始めた。右雑誌広告の版下は、ラフ案決定を経て同年一〇月初旬までに入稿され、同月二五日から同年一一月一四日までの間に、右版下を使用した広告が雑誌(Lマガジン、ぴあ、ハナコウエスト、ザ・テレビジョン)に掲載された。

高橋及び筒井は、原告が右のような作業に着手したことを認識しており、原告代表者は、高橋と協議しながら、チラシ・パンフレットの制作、雑誌・新聞の広告の版下の作成の段取りなどを記載したスケジュール表を作成し、右スケジュール表は、高橋を通じて被告山崎にも渡された。

(2) 原告代表者は、新野に対し、パンフレットも大半制作しており、芸能学園の開校が平成八年四月の予定であるので、同年二月には応募生のオーディションを行わなければならないことなどを説明して、学園長就任を説得したところ、新野はこれを了承した。

(3) また、平成七年九月には開設準備金についての話が出始め、原告代表者は、次のような内容の覚書の原案を作成した(但し、「平成七年四月開校」とあるのは「平成八年四月開校」の誤記である。)。

「原告と被告会社は、平成七年四月開校の一〇五芸能学園(仮称)について、下記の通り申し合わせる。

第一条 原告は、新野、伊東、城谷、岡本英則の四名の代理として、平成七年九月〜平成一〇年八月末までの三年間、被告会社主催の一〇五芸能学園の業務全般を責任をもって行うものとする。

第二条 開設準備金費用として、平成七年九月〜平成八年三月末までの七か月間、金五〇〇万円を被告会社は原告に支払うものとする。

第三条 平成八年四月以降の条件については、原告、被告会社協議の上、決定する。

第四条 (略)

以上、覚書の証として本書二通を作成し、各記名捺印の上、当事者間各一通を保有する。」

右覚書の原案は、高橋を通して被告山崎に渡され、同被告は、その欄外に自己のイニシャルによるサインをした。右覚書の原案末尾の署名押印欄には原告の住所・会社名は記載されているが、結局、原告代表者の署名押印及び被告会社の住所・会社名の記載、被告代表者の署名押印はされず、作成日付欄も空欄のままであった。それは、後日、右覚書の原案の内容を基礎として正式な覚書を作成することになっていたからである。

高橋は、原告代表者に対し、右覚書の原案に被告山崎がサインをしたということは、被告山崎がその内容を了解したことを意味するとの趣旨を告げたので、原告代表者はそのように理解した。

(4) 右覚書の原案第二条の開設準備金五〇〇万円の中には、新野、城谷、伊東に対する支払分も含まれていたが、その後遅くとも平成七年九月二七日までには、同人らに対する支払は、原告を通さず、直接被告会社から支払われることになった。

原告は、同日、被告会社に対し、九月分の企画運営費として一五万円を請求し、同年一〇月一一日支払を受け、また、同月一七日、一〇月分の企画運営費として一五万円を請求し、同年一一月一〇日支払を受けた。

右各金員の支払は、いずれも被告山崎の決裁を得て行われたものである。

(五)  平成七年一〇月六日、新野が芸能学園の開校に不安を持っていたことから被告山崎の意思を確認する必要があったためと、パンフレット(カラーカンプ)を被告山崎に見せ、進行状況を報告して了解を得るとともに、被告会社に新野がパーソナリティーを務めるラジオ番組「ウダのウダ」のスポンサーになるよう依頼するために、原告代表者及び新野は、高橋とともに学校法人技術学園会長室を訪れ、被告山崎と面談した。

このとき、新野が芸能学園の学園長に就任することが正式に決定された。原告代表者がミズの制作したパンフレット(カラーカンプ。甲六一)を被告山崎に見せたところ、被告山崎は、音楽関係の部分を増やすように指示したものの、それ以外については了承した。また、原告代表者が右ラジオ番組で芸能学園開校の宣伝をする企画を被告山崎に提案したところ、被告山崎は、これを了承し、番組の概要、今後の展開、予算が記載された「AMラジオ番組 新野新『ウダのウダ』」と題する書面に自己のイニシャルによるサインをし、さらに、FM802で芸能学園開校についてのスポットCMを流すことも了解した。

なお、右会合において、被告会社が原告に対して支払う金額についての話は出なかった。

(六)(1)  原告は、パンフレットの制作費用について見積りを出したが、筒井からもう少し低予算にするように言われたため、再見積りを行い、同年一〇月半ば、高橋ないし筒井に、見積金額として六二一万六〇〇〇円を提示するに至った。右見積金額は被告山崎に伝えられていないが、高橋によって概算五〇〇万ないし六〇〇万円であることは伝えられた。

(2) 原告は、同月一八日、ミズから、雑誌(五誌分)の広告、開校A4チラシ、FM802ステッカー(裏)の納品を受けた(なお、雑誌広告については前記のように雑誌社に入稿済みである。)。また、パンフレットは、既に版下までできあがっており、後は割り付けられた写真をカラーポジと入れ替えて印刷すれば完成するという状態になっていた。

(七)  ところが、同月一九日、高橋は、被告山崎から呼出しを受け、原告代表者を芸能学園開校計画から外すよう指示を受けた。高橋はこれに異議を唱えて反論したものの、被告山崎は、原告代表者が芸能学園を中心にして金儲けをたくらんでいるなどとして、原告を外すことを強く命令した。

高橋は、やむを得ず、原告代表者、新野、城谷、筒井などを呼び、同日夜から翌二〇日にかけて長時間協議をした結果、被告会社の実質的経営者(オーナー)として実権を握っている被告山崎の指示である以上反対はできないことから、原告は芸能学園開校計画から外れることになったが、新野、城谷は、開校が迫っていて途中でやめるわけにはいかないとの理由で、仕事を続けることにした。被告山崎の右指示は、原告代表者のみならず、高橋、筒井や新野、城谷という芸能学園開校計画に携ってきた者にとって思いもよらぬことであった。

右協議の際、高橋は、原告代表者に対し、既にかかった費用を被告会社が支払うのは当然であると述べた。

(八)  被告会社は、平成八年四月、新野を学園長として一〇五芸能学園を開校した(しかし、平成九年三月、赤字を理由に僅か一年で一〇五芸能学園を閉鎖した。)。

(九)  なお、原告代表者や新野は、芸能学園開校についての交渉において、被告会社の代表取締役である中山に会ったことはない。

右認定に反する乙第一号証の記載及び被告山崎本人尋問の結果は、証人高橋の証言、原告代表者尋問の結果に照らして採用することができない。

2  右1認定の事実を前提として、本件請負契約締結の事実(請求原因2(一)(1))の存否について検討する。

原告代表者は、平成七年四月ころ、高橋から、被告会社の芸能学園開校計画への協力を求められ、これに応じて、以後、芸能学園の学園長候補者を推薦し、芸能関係者に芸能学園の運営責任者や講師になってくれるよう働きかけてその了承を得て被告会社に紹介するなどし、同年八月四日には、被告会社側の担当者である高橋及び筒井の設定により、原告代表者、学園長に就任予定の新野、芸能学園の運営責任者となるべき城谷及び伊東と被告会社の実質的な経営者(オーナー)である被告山崎が一同に会したホテルでの会合において、パンフレットの制作や広告宣伝、開校準備の企画運営を原告に依頼することが話題になり、被告山崎をはじめとする出席者全員がこれを了承したこと、原告は右会合の結果を受け、チラシ・パンフレットの制作、雑誌・新聞の広告の版下の作成、一〇五芸能学園のロゴマークのデザインを、広告の企画制作を業とするミズに委託したこと、被告会社の高橋、筒井も、被告山崎も原告が右制作等を行うことを積極的に容認していたことからすれば、原告代表者と高橋との間で、同日、芸能学園の開校へ向けて原告と被告会社が協力していく旨の合意が成立したことは認められる。しかしながら、請負契約が締結されたというためには、少なくとも請負人において完成すべき仕事の内容が明らかになっていなければならないところ(そうでなければ、仕事完成義務が履行されたか否かという請負契約の本質的要素といえる事柄についてさえ判断することができない。)、同日の会合においては、仕事の内容につき具体的な合意がなされたとまではいえず、パンフレットの制作や広告宣伝、開校準備の企画運営を原告に依頼するという基本的な方向性が示されたに過ぎないし、原告代表者は、同年九月に、被告会社との間の契約内容を記載した覚書の原案を作成し、被告山崎がその欄外に自己のイニシャルによるサインをしたものの、右覚書の原案末尾の署名押印欄には、原告の住所・会社名が記載されているだけで、結局、原告代表者の署名押印及び被告会社の住所・会社名の記載、被告代表者の署名押印はされず、作成日付欄も空欄のままであったが、それは、後日、右覚書の原案の内容を基礎として正式な覚書を作成することになっていたからである、というのであるから、原告代表者と高橋との間で、同年八月四日に本件請負契約が締結されたと認めるのは困難というほかなく、他に、原告主張の本件請負契約締結の事実を認めるに足りる証拠はない。

よって、原告の被告会社に対する請負代金支払請求(主位的請求)は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

3  次に、被告会社及び被告山崎の不法行為責任(請求原因3)の存否について検討する。

(一) 契約締結の交渉過程において当事者が契約締結に向けて緊密な関係に立つに至ったと認められる場合には、当事者は互いに相手方に損害を与えないよう配慮すべき注意義務を負っているのであって、右交渉過程において、一方当事者が、その言動によって相手方に契約が成立し又は契約が確実に成立するとの信頼を抱かせながら、正当な理由なく契約交渉を打ち切った場合には、右契約交渉の破棄は不法行為を構成し、これにより相手方が被った損害を賠償すべき義務があるというべきである。

(二)  前記1認定の事実によれば、(1) 被告会社は、担当者である施設運用企画室長の高橋及び同室長補佐の筒井を通じて、平成七年四月ころ、原告代表者に被告会社の芸能学園開校計画の相談をもちかけ、以後、原告から、芸能学園の学園長、運営責任者、講師の候補者として芸能関係者の紹介を受け、同年八月四日には、右高橋及び筒井は、原告代表者、学園長に就任予定の新野、芸能学園の運営責任者となるべき城谷、伊東と被告会社の実質的な経営者(オーナー)である被告山崎との会合の場を設け、その場において、パンフレットの制作や広告宣伝、開設準備の企画運営を原告に依頼することが話題になり、被告山崎をはじめとする出席者全員がこれを了承した、(2) 原告は、右会合の結果を受け、チラシ・パンフレットの制作、雑誌・新聞の広告の版下の作成、芸能学園のロゴマークのデザインを、広告の企画制作を業とするミズに委託したが、高橋及び筒井は、原告が右のような作業に着手したことを認識しており、原告代表者が高橋と協議しながらチラシ・パンフレットの制作、雑誌・新聞の広告の版下の作成の段取りなどを記載したスケジュール表は、高橋を通じて被告山崎にも渡された、(3) 原告代表者は、原告が新野等の代理として被告会社主催の芸能学園の業務全般を責任を持って行うことや被告会社が原告に対し開設準備金費用として平成七年九月から平成八年三月末までの七か月間、五〇〇万円を支払うことなどを記載した覚書の原案を作成し、右覚書の原案は、高橋を通して被告山崎に渡され、同被告はその欄外に自己のイニシャルによるサインをしたが、高橋は原告代表者に対し、右覚書の原案に被告山崎がサインをしたということは、被告山崎がその内容を了解したことを意味するとの趣旨を告げたので、原告代表者はそのように理解した、(4) 平成七年一〇月六日には、原告代表者及び新野は高橋とともに被告山崎を訪ねて面談し、原告代表者がミズの制作したパンフレット(カラーカンプ)を被告山崎に見せたところ、被告山崎は、音楽関係の部分を増やすように指示したものの、それ以外については了承し、また、新野がパーソナリティを務めるラジオ番組で芸能学園開校の宣伝をし、FM802でスポットCMを流すことを了解した、(5) 被告会社は原告に対し、同年九月分及び一〇月分の企画運営費として合計三〇万円を支払った、というのであるから、被告会社と原告が契約締結に向けて緊密な関係に立つに至っていたことは明らかであり、かつ、右交渉過程からすれば、被告会社の担当者らの言動により、原告が被告会社との間で契約が確実に成立するとの信頼を抱いたことは当然というべきである。しかるに、前記1認定の事実によれば、被告会社は、原告が芸能学園の開設準備を着々と進めていることを認識しながら、これを容認していたというより、むしろ積極的に原告に芸能学園の開設準備行為をさせてきたというべきであるのに、同月一九日、突如、実質的経営者(オーナー)である被告山崎の指示により、原告との契約交渉を正当な理由なく打ち切ったのであるから、前記(一)に説示したところに従い、右契約交渉の破棄は不法行為(以下「本件不法行為」という。)を構成し、契約交渉を破棄した被告会社及び契約交渉破棄を指示した被告山崎には、原告が本件請負契約が締結されるものと信じて行動したことによって生じた損害を連帯して賠償すべき義務があるというべきである。

三  そこで、請求原因4(原告が支出した費用等)について判断する。

1  証拠(甲五二ないし六〇、六二ないし七五、証人速水、原告代表者)によれば、原告は、下請業者であるミズに対し、一〇五芸能学園開校準備費用として、平成七年一一月二七日から平成八年九月五日までの間に、合計六五三万〇二〇〇円を支払ったこと、その内訳は以下のとおりであることが認められる。

(一)  パンフレット制作費

(1) 開校パンフレット制作費

四一二万二〇〇〇円

消費税 一二万三六六〇円

(2) 開校A4チラシ制作費

二三万五〇〇〇円

消費税 七〇五〇円

(二)  雑誌広告制作費

一六九万八〇〇〇円

消費税 五万〇九四〇円

(三)  FM802関連費

(1) FM802ナレーション費

一五万円

消費税 四五〇〇円

(2) FM802ステッカー裏広告制作費 八万五〇〇〇円

消費税 二五五〇円

(四)  新野プリント料 五万円

消費税 一五〇〇円

2  以下、右1の各費用及び原告主張のその他の費用等と本件不法行為との相当因果関係の有無について検討する。

(一)  パンフレット制作費

(1) 開校パンフレット制作費

証拠(甲七ないし九、六一、六六、六七、七四、七五、八二、証人速水、原告代表者)によれば、ミズは、前記二1(四)(1)のとおり原告から委託を受けて、平成七年九月初旬には一〇五芸能学園の開校パンフレットの制作を始め、プランニングを行った後、数種類のカラーカンプ(ラフデザイン。表紙の標題や各頁の見出しを割り付け、ダミーの写真及び文章により各頁の割付けをしたもの)を制作する一方、パンフレットに掲載するタレントなどの写真を入手したり、新たにスタジオやロケで撮影し、文章を作成するなどし、そして、同年一〇月一八日には既に、前記二1(五)のとおり被告山崎の了承を得たカラーカンプを基礎にして、ダミーの写真及び文章の代わりに本物の写真及び文章を割り付けて版下(印刷会社に出す原稿で、色が付いていない状態のもの)まで作成しており、後は割り付けられた写真をカラーポジと入れ替えて印刷すれば完成するという状態になっていたが、前記二1(七)の経緯で作業を中止することになった旨原告から告げられたため、結局、印刷には回さなかったこと、原告は、ミズから右パンフレット制作費として別紙2及び3の各請求書(別紙3は、別紙2のうちの撮影料一一二万円の内訳)のとおり、四二四万五六六〇円(消費税込み)の請求を受け、これを支払ったことが認められる。そして、原告が右費用を支出したことによる損害は、本件不法行為と相当因果関係にある損害ということができる。

被告らは、パンフレットは完成したというにはほど遠い出来のものであり、原告が主張するような金額がかかるものではないと主張し、これに沿う証拠として乙第二号証、第三号証の1ないし3、第四、第六、第七号証、第八号証の1・2を提出している。

しかしながら、パンフレットは前記のとおり版下まで作成されており、後は割り付けられた写真をカラーポジと入れ替えて印刷すれば完成するという状態になっていたのであり、証拠(甲八二、乙二、三の1ないし3)によれば、フロムサーティーが制作した一〇五芸能学園のパンフレット(乙二)は、平成七年一一月六日に見積書が作成され、同月一五日に納品されており、相当短期間で制作されていること、右パンフレット(乙二)は、ミズ作成の版下(甲八二)と比較すると、割付けの点はともかく、同一の写真及び同一ないし酷似した内容の文章が数多く掲載されており、ページ数も、右版下の一六ページに対して、八ページにすぎないことが認められるので、これらの点に照らせば、フロムサーティーは、ミズが版下に使用した写真及び文章を被告会社から提供されて右パンフレットを制作したものと推認され、必要とした労力・費用の点で格段の差異があると考えられるから、右乙第二号証、第三号証の1ないし3(見積書・納品書・請求書)、第四号証(フロムサーティー代表の陳述書)は前記認定を左右しない。乙第六号証(マークプランニング制作のパンフレットのカラーカンプ)、第七号証(見積書)、第八号証の1・2(納品書・請求書)も、マークプランニングが制作したというパンフレットはカラーカンプの段階にとどまるものであり、しかも、ミズと同じ条件で制作したと認めるに足りる証拠がないのみならず、原告が本件不法行為によって右認定の損害を現に被っている以上、前記認定を左右しない。

(2) 開校A4チラシ制作費

証拠(甲一〇、六八、六九、証人速水、原告代表者)によれば、ミズは、前記のとおり原告から委託を受けて、一〇五芸能学園第一期生募集オーディションのチラシ(開校A4チラシ)を制作したこと、原告は、ミズから右開校A4チラシ制作費として二三万五〇〇〇円とこれに対する消費税七〇五〇円の請求を受け、これを支払ったことが認められる。

しかしながら、右二三万五〇〇〇円のうちにはデザイン料六万円とこれに対する消費税分が含まれているところ、証拠(甲一八、二三、二六、二九、六二、六三)によれば、原告は、一方で後記(二)の雑誌広告制作費のうちの四誌分のデザイン料として八万円を支払っているが、開校A4チラシのデザインと右雑誌広告四誌分のデザインとは同一であることが認められるのであって、同一のデザインについて重ねてデザイン料を請求する根拠は見出せないから、雑誌広告制作費のうちの四誌分のデザイン料八万円のみを損害と考えるのが相当である。よって、開校A4チラシ制作費の支出によって原告が被った損害は、デザイン料六万円を除いた一七万五〇〇〇円と消費税五二五〇円の合計一八万〇二五〇円であると認めるべきである。そして、右損害は、本件不法行為と相当因果関係にある損害ということができる。

被告らは、原告主張の開校A4チラシ制作費は過大なものであると主張し、これに沿う証拠として乙第九号証(マークプランニング作成の見積書)を提出しているが、マークプランニングが見積りの前提とした条件が、ミズが開校A4チラシを制作したのと同じ条件であると認めるに足りる証拠がないのみならず、原告が本件不法行為によって右認定の損害を現に被っている以上、右認定を左右しない。

(3) 原告の手数料

原告主張の手数料一八五万九〇〇〇円は、原告が本件請負契約が締結されるものと信じて行動したことによって生じた損害とはいえず、本件不法行為と相当因果関係にあるものとはいえない。

(二)  雑誌広告制作費

証拠(甲一八、二三、二六、二八、二九、四〇ないし四七、六二ないし六五、証人速水、原告代表者)によれば、ミズは、前記のとおり原告から委託を受けて、一〇五芸能学園第一期生募集オーディションについての雑誌広告の四誌分(Lマガジン平成七年一一月号、ぴあ同月一四日号、同月二八日号、ハナコウエスト一二月号)及びザ・テレビジョン分を制作し、一〇五芸能学園のロゴマークのデザインをしたこと、原告は、ミズから右雑誌広告制作費(四誌分及びザ・テレビジョン分。ロゴ作成料を含む。)として一七四万八九四〇円(消費税込み)の請求を受け、これを支払ったことが認められる。そして、原告が右費用を支出したことによる損害は、本件不法行為と相当因果関係にある損害ということができる。

なお、原告代表者尋問の結果中には、雑誌広告四誌分の内訳は、右のLマガジン、ぴあ、ハナコウエストにカジカジを合わせたものであるとの供述部分があるが、前掲各証拠及び甲第三四号証(カジカジ平成八年二月号掲載の一〇五芸能学園の雑誌広告)によれば、雑誌広告四誌分の請求書及び納品書にはデザイン料の数量は一と記載されているので、四誌の広告デザインは同一であると考えられるところ、カジカジに掲載された広告のデザインは、Lマガジン、ぴあ、ハナコウエストに掲載された広告(これらは同一のデザインである。)のデザインとは全く別であることが認められるので、右供述部分は採用することができない。

被告らは、原告主張の金額は過大であるとし、Lマガジン、ぴあ、ハナコウエストに掲載された広告は同一の原稿によるものであって、その制作代金は三三万九六〇〇円が相当であるし、ザ・テレビジョンに掲載された広告は超小型であって、その制作代金は八万四九〇〇円が相当であり、ロゴデザイン費は一〇万円が相当である旨主張し、これに沿う証拠として乙第一〇、第一一号証(マークプランニングの見積書)を提出しているが、証拠(甲六二、証人速水)によれば、企画料、デザイン料、コピー料、ポジ合成料、紙焼き料、ロゴ作成料は、数量一として請求されており、各雑誌ごとに別請求がされているわけではなく、雑誌ごとに別請求がされているカンプ料、レイアウト料、版下料、写植料、ポジフィルム出力料は、その性質上、各雑誌ごとに費用がかかるものであることが認められ、また、マークプランニングが見積りの前提とした条件が、ミズが雑誌広告を制作したのと同じ条件であると認めるに足りる証拠がないのみならず、原告が本件不法行為によって右認定の損害を現に被っている以上、乙第一〇、第一一号証は前記認定を左右しない。

(三)  FM802関連費

(1) FM802ナレーション費

証拠(甲五二、八一、証人速水)によれば、ミズは、前記のとおり原告から委託を受けて、FM802のナレーションのコピーを作成したこと、原告は、ミズからFM802のナレーション料として一五万四五〇〇円(消費税込み)の請求を受けて、これを支払ったことが認められ、結局、右一五万四五〇〇万円の限度では被告らの自白が真実に反する陳述であるとは認められないから、右自白の撤回は許されない(右一五万四五〇〇円を超える分については、被告らの自白は、真実に反し、かつ、錯誤に基づくものと認められるから、その撤回は許される。)。そして、原告が右費用を支出したことによる損害は、本件不法行為と相当因果関係にある損害ということができる。

原告は、FM802ナレーション費は二五万円(消費税を除く。)であると主張し、原告代表者は、右認定の一五万円(消費税を除く。)を超える一〇万円は原告の手数料であると供述するが、これは、原告が本件請負契約が締結されるものと信じて行動したことによって生じた損害とはいえず、本件不法行為と相当因果関係にあるものとはいえない。

(2) FM802ステッカー裏広告制作費

証拠(甲一一、七〇、七一、証人速水、原告代表者)によれば、ミズは、前記のとおり原告から委託を受けて、FM802のステッカー裏面の一〇五芸能学園の第一期生募集オーディションについての広告を制作したこと、原告は、ミズから右制作費(消費税込み)の請求を受けて、これを支払ったことが認められ、右制作費が八万四九五一円(消費税を除く。)であることは当事者間に争いがない(右支払った制作費は前記1(三)(2)のとおり八万五〇〇〇円であると認められるが、原告の主張は八万四九五一円にとどまる。)。したがって、右制作費と消費税相当額の合計である八万七四九九円が原告の損害となり、これは、本件不法行為と相当因果関係にある損害ということができる。

(四)  新野プリント料

証拠(甲一〇、七二、七三、証人速水、原告代表者)によれば、ミズは、前記のとおり原告から委託を受けて、前記(一)(2)の開校A4チラシ(甲一〇)を制作したが、これに新野の顔写真を入れたこと、原告は、ミズから右作業につき新野プリント料(紙焼き料)として五万一五〇〇円(消費税込み)の請求を受けて、これを支払ったことが認められる。そして、原告が右費用を支出したことによる損害は、本件不法行為と相当因果関係にある損害ということができる。

被告らは、右新野プリント料は雑誌広告制作費に含まれているので、別途に支払義務はない旨主張するが、証拠(甲六二ないし六五、七二、七三)によれば、新野の顔写真が入っている雑誌広告(甲一八、二三、二六、二八、二九)の制作費(四誌分及びザ・テレビジョン分)の請求書(甲六二、六四)及び納品書(甲六三、六五)には単に「紙焼き料」と記載されているに過ぎないのに対し、新野プリント料の請求書(甲七二)及び納品書(甲七三)には「紙焼き料(プリント、デュープ)」と記載されていることが認められ、その作業の内容は異なるものと認められるので、被告らの右主張は採用することができない。

(五)  企画料

原告主張の企画料(右(二)ないし(四)についての原告の手数料)二〇万八二九五円は、原告が本件請負契約が締結されるものと信じて行動したことによって生じた損害とはいえず、本件不法行為と相当因果関係にあるものとはいえない。

(六)  開設準備プロモート費

原告主張の開設準備プロモート費(原告が被告会社に芸能関係者を斡旋したことによる仲介手数料)三〇〇万円も、原告が本件請負契約が締結されるものと信じて行動したことによって生じた損害とはいえず、本件不法行為と相当因果関係にあるものとはいえない。

なお、原告の被告会社に対する一一八五万二四六三円の平成八年二月七日付け請求書(甲一二)中には、右開設準備プロモート費三〇〇万円の内訳につき、仲介手数料以外に、現に原告が新野や講師を被告会社に紹介するに当たって出捐したものと窺われる費目の記載があるが、実際に出捐した額を認めるに足りる証拠がない。

3  以上によれば、本件不法行為と相当因果関係にある損害額の合計は六四六万八三四九円となる。

四  抗弁について判断するに、被告会社が原告に対し、平成七年一〇月一一日に一五万円を、同年一一月一〇日に一五万円を支払った(合計三〇万円)ことは当事者間に争いがなく、右三〇万円は、前記二1(四)(4)のとおり同年九月分及び一〇月分の企画運営費として支払われたものであり、右三3の六四六万八三四九円の損害の填補に充てられるべきものであるから、損害の残額は六一六万八三四九円となる。

また、被告会社は、原告の右損害賠償請求権に対して、原告に対する損害賠償請求権をもってする相殺を主張するが、受働債権たる原告の右損害賠償請求権は不法行為によって生じたものであるから、民法五〇九条により、右主張の相殺は許されない。

五  よって、原告の被告会社に対する主位的請求を棄却し、原告の被告会社に対する予備的請求及び被告山崎に対する請求は、六一六万八三四九円及びこれに対する不法行為の後の日である平成八年八月一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金(商事法定利率年六分の請求は理由がない。)の連帯支払を求める限度で理由があるから、これを認容し、その余はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条、六四条本文、六五条一項本文を、仮執行の宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 水野武 裁判官石井寛明 裁判官石丸将利)

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